STP分析とは?事例でわかるマーケティングへの活用方法【図解】
STP分析は、市場理解や自社理解に役立つフレームワークです。市場や顧客のニーズ、自社と競合他社との差分をチェックし、マーケティング戦略を練るための土台作りに欠かせません。
当記事ではSTP分析の意味や目的だけでなく、事例を紹介しながら分析の方法も解説します。セグメンテーション・ターゲティング・ポジショニングそれぞれの概念を理解し、マーケティング戦略の立案に役立てましょう。
目次
STP分析とは
STP分析とは「Segmentation(セグメンテーション)」「Targeting(ターゲティング)」「Positioning(ポジショニング)」の頭文字を取って名づけられた分析手法です。アメリカの経営学者フィリップ・コトラーが提唱した理論で、現在では代表的なマーケティングフレームワークの1つです。
「セグメンテーション」「ターゲティング」「ポジショニング」はそれぞれ何を意味し、どのような目的で行うのか詳しく見ていきましょう。
STP分析の概要
セグメンテーション・ターゲティング・ポジショニングは、簡潔にまとめると以下のような意味で捉えることができます。
- セグメンテーション:市場の細分化
- ターゲティング:細分化した中で、狙う市場の選択
- ポジショニング:狙う市場における自社の立ち位置の明確化
マーケティングにおけるSTP分析の役割
STP分析は新規事業を立ち上げる際、マーケティングを進めるための指針として非常に役立ちますが、それには以下のような理由があります。それぞれみていきましょう。
- 顧客やニーズを整理する
- 自社の商品・サービスの強みを明確にする
- 他社との差別化ポイントを把握し適切な市場を選択する
顧客やニーズを整理する
現状、市場や顧客が何を求めているのか、というニーズを明らかにし、自社の製品に合致した顧客層を把握することに役立ちます。また顧客やニーズを把握することで、具体的なペルソナが想定できます。
これはビジネスモデルを構築するためにも必要な情報であり、ビジネスにおける戦略的な意思決定を行う上でも役立ちます。
自社の商品・サービスの強みを明確にする
誰(ペルソナ)に商品・サービスを提供するかを整理することで、あわせて自社商品・サービスの特徴や強みを整理することができるようになります。自社製品の強みを理解することは、プロモーション戦略の推進に欠かせません。
また自社製品の強みを把握し社内やチーム内の共通認識にすることで、立場による認識のずれをなくし、組織力の強化にも繋がります。
他社との差別化ポイントを把握し適切な市場を選択する
自社製品と競合他社の商材を比較すると、差別化できるポイントを把握することができます。差別化ポイントを把握することは、他社との競合を回避しつつ競争で勝ち残れる市場、つまり自社にとって優位な市場を戦略的に選択できます。
たとえ自社の製品・サービスが優れていたとしても、既に実績やブランド力のある競合他社が存在する場合、あえて同じ市場で戦っていくのか、競合を避けるべきなのかを見極める必要があります。
STP分析の要素
STP分析の概要と目的を簡単に理解したところで、「セグメンテーション」「ターゲティング」「ポジショニング」それぞれの意味を詳しく見ていきましょう。
セグメンテーション
セグメンテーションとは、市場や顧客を同じニーズや性質を持ったグループに分割することを指します。多様化している顧客ニーズに応える、売上ではなく利益を最大化する観点から非常に重要です。
マーケティング戦略において、同じ商品を売るにしても、どこの市場を狙っていくかで競合先も変わってきます。セグメンテーションは自社が勝てる領域(ターゲット顧客層)を選定するにあたっての、準備段階として捉えると良いでしょう。
セグメントの切り口としては様々な変数が存在しますが、基本的には以下の4つの切り口が頻繁に使用されます。
ジオグラフィック変数(地理的変数)
国・地域などの地理的な条件や、経済発展・人口・気候・文化・宗教・生活習慣といったマクロな視点から要素でセグメントを分割します。
デモグラフィック変数(人口統計的変数)
年齢・性別・家族構成・年収・学歴などの条件でセグメントを分割します。
ジオグラフィック変数に比べると、ややミクロな視点です。
サイコグラフィック変数(心理的変数)
社会階層・ライフスタイル・価値観・性格などの条件でセグメントを分割します。
心理的な面を基準に市場を分割する特徴があります。
ビヘイビアル変数(行動変数)
顧客が実際に購買に至った行動パターンからセグメントを分割します。
具体的には購入した時間帯や態度、購入経路・頻度などを切り口として使用します。
昨今ではインターネットの普及や、消費者ニーズの多様化に伴い、より個々のニーズに寄り添える「デモグラフィック変数」や「ビヘイビアル変数」が重視される傾向があります。
セグメンテーションをさらに詳しく理解したい方は、以下の記事を併せてご覧ください。
ターゲティング
ターゲティングとは、セグメンテーションによって細分化されたグループの中から、自社にとって適切な領域を選択するための根拠づけの作業になります。
セグメンテーションが市場を「分ける」作業であるのに対し、ターゲティングは分割された市場の中から狙うべき市場を「絞る」作業です。
ターゲティングは根拠づけの作業ですので、自社や競合他社の強みや弱みを調査をする必要があります。セグメンテーションによって分割されたいくつかの領域から、特定の領域を消去法のように選ぶというような単純作業ではない点に、注意が必要です。
ターゲティングでは、以下の3つの手法がよく用いられます。
無差別型マーケティング
セグメンテーションにより細分化された市場の違いを無視して、全ての市場に対して同じ商品・サービスを提供する手法です。
幅広い顧客を対象とすることから、資金力が豊富な大企業に適した手法です。食料品や、日用雑貨などが該当します。
差別型マーケティング
セグメンテーションにより細分化された複数の市場に対して、それぞれのニーズにあった商品・サービスを提供する手法です。
複数の料金形態を設ける、少し機能を変えて販売するなどの工夫をし、それぞれの市場にあった商品・サービスを複数開発・提供します。自動車やアパレル商品を筆頭に、多くの企業で採用されています。
集中型マーケティング
セグメンテーションにより細分化された市場の中でも、ごく限られた市場に絞り込んで商品・サービスを提供する手法です。
市場を絞ることで経営資源を集中投下することができ、特定かつ少数の顧客に対してアピールできるため、高級ブランドやニッチな商品など熱狂的なファンを抱える企業に最適です。
ポジショニング
ポジショニングは、セグメンテーションとターゲティングによって絞り込まれた領域内において、自社の製品・サービスの立ち位置を決める作業です。ポジショニングの意義は、顧客に「競合と差別化された製品・サービスであること」を認知させることにあります。つまり、自社にとって最も優位なポジションを選択し、市場の中で独自的な地位を獲得していくことが重要です。
自社の立ち位置を明確にするポジショニングでは、一般的に「ポジショニングマップ」が用いられます。縦軸と横軸の2軸で4つの象限を作り、競合他社の製品やサービスをマッピングする方法です。
2軸によく使われる要素として、以下の3つが挙げられます。
- 商品自体が持つ性質にまつわる軸
例)扱いやすさ、画素数の多さ、処理速度の速さ - 商品やサービスに付与された価値にまつわる軸
例)価格(高い・安い)、品質(高品質・低品質) - 使用用途に関する軸
例)アウトドア向け、普段使い向け、競技者向け
また、軸の作成には以下の3点に注意が必要です。
二つの相関関係が強い軸を選ばない
例えば、価格の高低と品質の高低には一定の相関関係があり、この二つを2軸として設定しても、自社の目指すべきポジションは見えてきません。
軸を選定する際は、二つの要素が共に独立した関係であるかを意識すると良いでしょう。
KBF(購買決定要因)を意識する
ポジショニングマップを作っていると、競合との関係性に注目し、「自社がいかに差別化を図るか」に固執してしまうことがあります。この場合たとえ差別化に成功したとしても、顧客が差別化要素に気がつかなければ、ユーザーの購買行動には何ら影響を与えない可能性があります。「顧客のニーズを満たすことができるか」という視点が大切です。
自社にとって競合優位性のある軸を設定する
あくまで、二つ目の「KBFを意識する」という前提のもとですが、自社の強みをある程度発揮できる軸を選定するようにしましょう。
例えば、これまで「安さが売りの商品」を提供してきた会社が、ポジショニングマップを作成した結果「富裕層を狙った高級商品」のポジションを狙うことになったとします。これでは従来ユーザーに与えてきた「安価」というブランドイメージとの乖離が生じ、これまで培ってきた評価が下がってしまう可能性があります。
ポジショニングマップの目的は「自社がとるべきポジション」を明確にすることです。ポジショニングマップを作成する際は、自社にとって最も優位なポジションを設定すると良いでしょう。
次の章では事例を用いて複数のポジショニングマップを紹介します。ポジショニングマップの作成方法を詳しく知りたい方は、以下の記事を併せてご確認ください。
STP分析の事例【3選】
実際に、STP分析を行った事例について見ていきましょう。
本記事では、「ユニクロ」「スターバックス」「マクドナルド」の3社を例にして、STP分析を行ってみました。
※以下のSTP分析はKeywordmap編集部の独自見解です。各社による実際のSTPとは異なる可能性があることを予めご了承ください。
ユニクロの事例
上述したように、セグメントの切り口は様々です。今回は価値観や性格の軸(サイコグラフィック変数)をもとに、市場(衣料品市場)のニーズ分けをしてみると、以下のようにセグメントを分けることができます。
次に、上記のセグメントの中で適切な領域を選択するための根拠づけの作業を行います。
ユニクロを展開する株式会社ファーストリテイリングは、SPA企業であることが強みです。SPA(Speciality store retailer of Private label Apparel)とは企画から製造、販売までを垂直統合させてサプライチェーンのムダを省いたビジネスモデルのことで、消費者のニーズに迅速に対応できます。
また、世界中のすべての人を対象にした「MADE FOR ALL」というコンセプトを掲げていることから、多様な価値観を受け入れる生産能力も強みです。
以上の理由から「気軽さ」と「選択肢の多さ」を満たす領域をターゲティングしていると考えるのが適当と言えるでしょう。
最後に、セグメンテーションとターゲティングによって絞り込まれた領域内において、ユニクロの立ち位置を決めるためポジショニングマップを作成します。
ユニクロの強みは「比較的手の届きやすい価格設定」と「多様な価値観を受け入れる普遍的なデザイン性」にあるとし、今回は「気軽にファッションを楽しみたい」顧客(ペルソナ)のニーズに応える、価格とデザイン性の2軸で設定しました。
上記のようにポジショニングマップを設定すると、ユニクロは他のブランドに比べ、「シンプルなデザイン」で「お手頃価格」なポジションにいるとわかります。
スターバックスの事例
スターバックスの事例では購入目的や購入態度の軸(ビヘイビアル変数)をもとに、市場(飲料市場)のニーズ分けをしてみると、以下のようにセグメントを分けることができます。
次に、上記のセグメントの中で適切な領域を選択するための根拠づけの作業を行います。
スターバックスは「お互いに心から認め合い、誰もが自分の居場所と感じられるような文化をつくること」をバリューの一つに掲げています。また「厳選されたアラビカ種のコーヒー豆のみを使用したこだわりのコーヒー」をゆるぎない原点としていることから、品質も重視していると言えるでしょう。
以上の理由から、「嗜好品としての側面」と「品質の良さ」を満たす以下の領域をターゲティングしていると考えるのが適当と言えるでしょう。
最後に絞り込まれた領域内において、スターバックスの立ち位置を決めるためポジショニングマップを作成します。
スターバックスの強みは「店舗数の多さ」と「くつろげる空間」にあるとし、提供形態と店舗数の2軸で設定しました。
上記のようにポジショニングマップを設定すると、スターバックスは他のブランドに比べ、「くつろげる空間を提供」する「万人にとって身近」なポジションにいるとわかります。
マクドナルド
マクドナルドの事例では家族構成や年齢の軸(デモグラフィック変数)をもとに、市場(ファストフード市場)のニーズ分けをしてみると、以下のようにセグメント分けができます。
次はターゲティングです。
マクドナルドを利用する客層は非常に広い一方で、高カロリーで味のはっきりした商品が主力であることから比較的若年層に人気です。また価格の安さから、学生時代に大人数の集まりなどで利用された経験がある方も多いのではないでしょうか。
以上の理由から、下記のように「1名〜大人数」と「比較的若年層」を満たす広めの領域をターゲティングしていると考えるのが適当と言えるでしょう。
最後に絞り込まれた領域内において、マクドナルドの立ち位置を決めるためポジショニングマップを作成します。今回は、ターゲット領域をさらに「ハンバーガーを取り扱うファストフード店」に絞ります。
マクドナルドの強みは「圧倒的な安さ」と「高カロリーさ」にあるとし、提供形態と店舗数の2軸で設定しました。
上記のようにポジショニングマップを設定すると、「安価」で「高カロリー」な領域はレッドオーシャンである中でも圧倒的に「安価」で「高カロリー」なポジションを確立していると言えます。
STP分析の注意点
ここまで、事例を用いながらSTP分析の意味や方法について解説してきました。
STP分析は市場理解・自社理解において有用な分析手法である一方で、以下のような注意点がありますので、予めチェックしておきましょう。
順番にこだわりすぎない
STP分析は、セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニングの3つの要素を連動させて考えることが重要です。つまり、必ずしもセグメンテーション→ターゲティング→ポジショニングの順序で進行する必要はありません。状況に応じて分析しやすい項目から取りかかったり、各項目を設定した後に再度見直したりしても良いでしょう。
ただし、見直しや軌道修正を行う際は、矛盾を防ぐためにS・T・Pの全体を見渡すことが重要です。
市場の適正を吟味する
STP分析を通して自社製品にとって最適なポジションを発見できたとしても、そのポジションが「ビジネスに適しているかどうか」という視点が必要です。市場規模は小さすぎないか、将来的に成長が見込める市場かを検討し、収益性との兼ね合いを考えることも必要です。市場理解を深めるためには、※PEST分析が有効です。
※PEST分析
政治、経済、社会、技術の4つの外部環境が自社に与える影響を分析してマーケティンに活かすためのフレームワーク
多角的な視点から検討を行う
STP分析は、あくまで自社に最適な市場を発見し、競合優位性のある自社の立ち位置を把握するためのフレームワークです。STP分析によって全体像を把握することのみで満足せず、3C分析や4P分析など他のフレームワークと併用することで、マーケティングの観点からより高い効果が得られます。STP分析をあくまで市場理解・自社理解の一つの手段と捉え、多角的な視点を持つことが大切です。
以下の記事では、PEST分析や3C分析、4P分析について解説しています。全部で20種類のマーケティングフレームワークを紹介しているので、興味のある方は併せてご確認ください。
まとめ:STP分析で競合他社との差別化を図ろう
STP分析とは「Segmentation(セグメンテーション)」「Targeting(ターゲティング)」「Positioning(ポジショニング)」の頭文字を取って名づけられた分析手法であり、市場理解や自社理解に役立つマーケティングフレームワークの1つです。
- セグメンテーション:市場の細分化
- ターゲティング:細分化した中で、狙う市場の選択
- ポジショニング:狙う市場における自社の立ち位置の明確化
STP分析は、セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニング、それぞれを連関させるフレームワークです。それぞれ独立して考えるのではなく、一貫させつつ、多角的な視点からマーケティング施策に活かすようにしましょう。詳しい分析の仕方は、事例を挙げつつ本文で紹介しています。
また、STP分析は3C分析や4P分析、PEST分析など他のフレームワークと併用することで、より高い効果が実感できます。STP分析を活用し、自社にとって最適な戦略を立案しましょう。
詳しくはこちら
Keywordmapのカスタマーレビュー
ツールは使いやすく、コンサルタントのサポートが手厚い
良いポイント
初心者でも確実な成果につながります。サポートも充実!
良いポイント
機能が豊富で、ユーザーニーズ調査から競合分析まで使える
良いポイント